八○年代後半に国鉄分割民営化がもたらした「JTB存亡の危機」を、労使一体となって乗り越えた経験をもつ中高年社員に、特に大きな衝撃を与えた。
国鉄民営化で、当時、国鉄の駅構内に窓口を置いていた営業所はすべて退去を命ぜられ、大きな収入源だった定期券の代売権利を取り上げられた。
その大変な事態を克服して、赤字転落させないできた世代の人たちにも、これまで一度も遭遇したことのない非常事態であるという現実を突きつけるのに、S氏は懸命だった。
新興勢力の台頭非常事態宣言を発布してまで社内に危機意識を喚起させようとしたその裏には、目を見張るほどに速いスピードで業界再編が進んだことが挙げられる。
とりわけ○三年は、内外の市場で大きな異変が起きた。
「野武士と公家」と相対して称された近畿日本ツーリストが、○二年度の業界第二位から四位に転落し、FITと呼ばれる海外個人旅行が中心のHISが、海外旅行取扱高で業界第二位に浮上した。
SARS発生による団体旅行の落ち込みが、個人旅行に比較して大きかったのが響いた結果だった。
とりわけ「大手三社」と呼ばれたJTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行が、取扱高を四割以上も落とす結果となった。
三社は、三つ巴となって業界を牽引してきた同志だけに、HISのめざましい台頭ぶりは衝撃的だった。
格安航空券を得意とするHISは、個人客が大半を占めているだけに、SARS終息宣言後の業績回復は早かった。
潮の中で回復も遅れた。
個人にチケットを売るよりも、利益率の高い団体旅行を扱うほうが営業効率がよい。
それが黄金律のように考えられていた時代が長く続き、いつの間にか個人に強いHISに足元をすくわれたのだった。
「HISのペースについていけない」、そう感じたのはJTBだけではなかったであろう。
一時はJTBに激しい猛攻をかけ、「追いつけ追い越せ」を地でいった野武士の近畿日本ツーリストでさえ、新聞で参加者募集をするメディア戦略により急成長した阪急交通社から大きく水をあけられたのである。
旅好きな日本人のこと、海外旅行離れが進む一方で、売上げを伸ばしたのは国内旅行部門だった。
結果として、国内旅行、海外旅行と外国人旅行を合わせた総取扱高では、第一位JTB、二位近畿日本ツーリスト、三位日本旅行、四位阪急交通社、五位HISと、順位に大きな変動はなかったが、安住することのできない時代の幕開けを感じさせる一年となった。
「HISは、八○年に津田秀雄現会長が机二つと電話一本で創業し、日本では高嶺の花だった海外旅行に「自由旅行」という新風を吹き込んだ。
JTBを頂点とする既存の旅行会社の常だとは言えまい。
ヒーロー視されるHISと市場の変化その後もHISの躍進は留まるところを知らず、激しく上位に肉薄しはじめた。
「格安航空券を武器に成長したHISが○五年度の海外旅行取扱人数(単独決算ベース)で旅行業最大手のJTBを抜いた。
創業二五周年目にしての″快挙″」と日本経済新聞紙上に報じられたのは、○六年七月三○日で、JTBがまさに分社化を進めていた時期に重なる。
連結決算ベースでみれば、JTB三六○万人に対しHISは一三○万人と遠く及ばないのだが、「単独決算ベースでJTBを抜いた」とマスコミは取り上げたのである。
年間取扱に限らず、月間取扱、方面別取扱の一つひとつに、「打倒JTB」の具体的目標を掲げて攻勢をかけているらしいといわれていただけに、この報道にJTBマンたちが心理的なダメージを受けなかったわけではない、常識を破り、業界の「異端児」と呼ばれたベンチャー企業は、今や追われる立場でもある」とするこの記事は、HIS人気をさらに押し上げた。
消費者の欲求や世の中の目は、明らかに変化している。
JTBにとって十八番ともいえるブランド価値すら失墜させかねないほど、状況は深刻だった。
勢いづいたHISは、学生の就職人気でも頭角を現しはじめる。
○五年の大学生就職人気企業ランキングで第二○位だったのが、○六年には一六位と、順位をじわりと上げた(「毎日コミュニケーションズ」調べ)。
ある外資系航空会社でHISを担当する営業マンによると、「学生時代、HISの格安航空券を手にバックパッカーで旅した連中が、社会に巣立ってから数年が経過している。
彼らは職場で中堅どころとなり、旅行企画などの決定権者に成長した」と語例えば、修学旅行マーケットでは、HIS育ちの教諭が、「経験豊富なJTBがよいのでは?」とアドバイスする熟年教諭を尻目に、「HISこそ大企業だし、ブランドカもある」と切り返す場面にも遭遇したという。
HIS育ちの若い顧客にとって、「(修学旅行の)ノウハウがあるのかないのか」という問題より、「同じサービスを提供してもらえるなら、安いほうがよい」という合理的な考えが、邪気なくして先行しているのだ。
こうした最近の傾向は、「個」が認めたエージェントが、団体参入することで団体席を大量に卸す結果となるから、ことさらに価格淘汰が始まる怖さがある。
一方、HISには、辛い過去がある。
創業当初、ブロックで押さえた団体席を切り売りし、格安航空券として乱売したとして、いくつかの航空会社から取引を拒否されたのだ。
新興業者がゆえに制裁を加えられ、辛酸を舐めた。
しかし、それが今、逆転しようとしているのだ。
他社に抜きん出た店舗数を誇り、対面商売を得意としてきたJTBも、インターネットの普及に伴う宿泊予約サイトにおされ、国内市場でも苦戦を強いられることになる。
国内最大の宿泊予約サイト「旅の窓口」を運営するマイトリップ・ネットを楽天が買収し、「楽天トラベル」に統合したのは、やはり○三年のことだった。
また、出張族に人気の「旅の窓口」は、ビジネスホテルなどを中心に約一万二○○○件の宿泊施設をネット上で提供し、会員数も三○○万人と圧倒的優位で取扱高を増やしていた。
これに対してJTBがネットで提供できる宿泊施設数は、当時でわずか五○○○件、会員数も二万人程度と完全に出遅れていた。
経済産業省などがまとめた「電子商取引に関する実態・市場調査」によると、旅行関連の個人向け電子商取引における国内市場規模は、○三年から○四年のわずか一年間で四○%も拡大し、取扱額六○○○億円を突破するといわれ、大市場へ変化を遂げた時期である。
急拡大の最大の理由は、ネット予約による宿泊料金の″安さ″であった。
一般に宿泊施設は、送客した旅行会社に対して、「販売手数料」の名目で一五%を支払うのが慣例だった。
ところがサイト販売の場合は六〜八%程度と手数料が少なくて済む。
宿泊施設側からすれば販売コストを抑えることができるし、その分を割引いて消費者に還元することができるから一石二烏だ。
さらに楽天トラベルは、○五年に第一種旅行業の登録をしてパッケージ商品へも本格的に参入した。
通年で、空室を提供できる仕組みを構築したのだ。
飛行機 予約といえばこちらのサイトです。
飛行機 予約全般の一般知識を分かりやすく紹介いたします。
現在の問題点を改善した上で、新しい飛行機 予約を公開していきます。


